1.選べる治療法?


 もしあなたがある医療機関で糖尿病と云う診断を受けたり,はなはだ曖昧な“糖尿の気(け)がある”と云いまわしをされたらちょっとここを覗いて下さい.糖尿病ほど色々取り沙汰され時には間違った噂にのる病気も少なくないでしょう.専門的に治療をしている私たち糖尿病医にとっては,恫喝的な言い回しや逆に楽観的や極端にすぎるマスコミの特集等でいらいらさせられる事もしばしばあります.さて糖尿病の治療は選ぶ事が出来ます.でもその選択肢によっては最悪なことにもなりかねません.あなたがどれを選ぶかはあなた自身が決める事です.さて糖尿病と診断されたら治療にかかる訳ですが,ここではタイプ別にどう云う風な治療が世間で行われているかわけてみました.あなたはどれに当てはまりますか?

A:最良の方法

 まずいかな程度の糖尿病でも入院をお奨めします.何故なら食事療法のみでコントロール出来る方でもインスリンが必要な方でもその基礎になる食事療法や運動療法は知っておかなければならないものですから.
 一般的に教育入院と呼ばれますが大体2〜4週間みておいて下さい.ここで基礎を学び,実際の食事療法を体験し,必要があれば投薬やインスリン指導を受け血糖コントロールをして退院と云うことになります.その後そこの病院の糖尿病外来に通院するか近医に通院する事となります.
 一ヶ月に一回のHbA1cの測定等が行われます.又合併症がある方はその治療や経過観察を行ないます.

B:次善の方法

 とりあえずどうしても入院の時間が取れない方の場合は外来で治療を進めて行くことになります.実際の食事療法の機会がないのでちょっと難しいですが出来ない事はありません.強固な意志とモチベーションが必要になります.インスリン注射の導入などは外来でも全然問題ありませんが,蓄尿が難しかったり,血糖日内変動が測定しずらかったりと云う難点があります.機会があれば入院を一度お奨めします.

C:ちょっと問題な方法

 健康診断等で糖尿病を指摘され近医へ行って,食事療法の話もなくいきなり投薬を受ける.血糖は下がるけれども基礎知識もないので,ことの重要さが判らず治療が途切れがちになる可能性が高いです.そうならない為には医療機関の見定めが大切ですね.

D:非常の問題のある方法

 心配はしているのだけれどふんぎりがつかなくて健康診断や市民検診だけで様子を見る.何となく食事制限はしているのだけれどはっきり問題点が判っていない.又,いままで健康に自信があり,糖尿病であると云う事に頓着しないタイプの人もここに入ります.認めたくないのは判りますがほっておくと合併症が知らない内に進行してしまいます.

E:最悪な方法

 新聞折り込み等の民間療法を試す.血糖が高いからといきなり民間療法に走る人と,色々薬を試してみたけれど効果がないので民間療法に走ってしまう人がいます.後者は糖尿病治療に慣れていない医療機関にかかっている方が多いようです.正しい知識を持っている方ならまず踏み外しません.怪しげな薬で合併症が進行し,失明,腎不全になった方は数知れず…ああ.大体インスリン注射って云うのが一番安全で理にかなっているのにそれをまるで毒扱いする妙な民間療法もあるので大変です.中途半端な知識が一番危険です.本当に効果のある薬ならちゃんとメーカーが厚生省の承認を受けますから!

 どうでしたか?これは難しい問題ですね.全ての人がA:であれば(又はその機会があれば)いいのですけど…まずA:かB:を選んで貰う為にはそのモチベーション(動機,ヤル気)がなければなりません.さてそれでは第一に治療の目的です.糖尿病と云う診断を受けた方の中には,それだけで頭がくらくらしてしまって,あぁ,食事療法を覚えなきゃとそればっかりに気持ちが行ってしまう方もおられるでしょう.しかしちょっと待って下さい!始めにあなたは何故糖尿病を治療しなければならないかをはっきり聞きましたか?又は,何れかの診療所や病院で教えて貰った重大な理由を(恐らくはその糖尿病教室の教程のいちばん始めの部分です)もう忘れてしまっているかも知れません.血糖が高いから治療する,ではないですよ.念のため.

 そうです!合併症の予防こそがその本質です.勿論血糖が極端に高値になるための障害,例えば糖尿病性ケトアシドーシス(高い血糖により,血液が酸性になってしまい意識障害等を起こす重大な病態)等もありますが,長期的に見ればより重大な事は高血糖による血管障害です.さあ思い出して下さい.特に糖尿病では体の中で,より細い血管が集中する場所,そこが気に留めるべきところです.即ち,網膜,腎臓そして神経です.それらは何れ重大な結果をひき起こします.失明,血液透析,壊疽等です.血糖が高いから治療すると云うのは確かですがこれは手段です.それではその手段についてお話しましょう.


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