5.入院ってどんな感じ?入院しなかったら?


 糖尿病の診断を受けた時,まず最初に「教育入院」と云う言葉をあなたの主治医から聞いたかも知れません.これは文字どおり,糖尿病と云う病気に対する理解を深め,実際の食事療法を体験する良い機会です.

 入院期間は医療機関によって少々の差はありますが凡そ4週間程度のものです(最近は暇のない方向けに週末入院を何回か,と云うシステムをとっている所もあるようです).大体4回の糖尿病教室の講議を受け(前半が医師による糖尿病全般の概念,食事療法,運動療法,薬物療法,非常時の対応法等で,後半が栄養士による食事療法の講議と実際云う構成が殆どです)後は自分の食事の分析や運動療法に費やされます.勿論一日の血糖の動きを見る為に血糖の日内変動(病棟で一般にターゲスと呼ばれます)をチェックします.
 具体的には朝一番の空腹時,朝食後2時間,昼食前,昼食後2時間,夕食前,夕食後2時間,睡眠前の7回採血を行ない(場合によっては深夜も)一日分の尿を溜めます(蓄尿と呼びます.尿に出る糖や蛋白やインスリンの前駆物質であるC−ペプタイド等を測定する為です).血糖コントロールが食事療法と運動療法のみで不可能となれば場合に応じて経口血糖降下剤やインスリン注射の練習等も行われます.さて色々な事情でどうしても入院出来ない又はしたくない時はどうしたら良いのでしょうか?

 もしあなたが意識が無くなる程の高血糖による意識障害でなければ,何とかならないでもありません.しかしそれには条件が必要です.(その前に一言云っておきたいのですが,こう云う話は普通はしないものです.何故なら糖尿病治療の原則が崩れてしまう恐れがあるのと,一生この病気につき合わなくてはならない為,1ヶ月位はその為に割いても良いと思うからです)しかし敢えて書くのはあらゆる場合を想定しなければ意味が有りませんし,その為にこのページがあると云っても過言ではないからです.
 それでは入院が必要な場合にはどんな場合があるか列挙してみましょう.余りにも想定が多いと判りづらいと思いますので,初めて糖尿病の診断がついた時で,今迄無治療だった場合に限りましょう.妊娠時や小児糖尿病は入院は必須と考えて下さい.又,深刻な感染症や肝障害,腎障害等の合併症がある場合も入院は必須と考えておいて下さい.どれくらいが深刻かと云うのは医師の診断によるしかないでしょうが…

1.血糖が600〜700mg/dl以上あり,意識がない.ケトーシス等を起こしている場合.
2.意識はあるが血糖が500mg/dl前後あり,尿にケトンが出ている.
3.空腹時血糖が200mg/dl前後,食後血糖が300〜400g/dl前後.
4.空腹時は140mg/dl以上であるか又は食後血糖が200mg/dl以上.
5.75gOGTT(糖負荷試験)で糖尿病型であると云われた,又は健康診断で指摘された.

 今迄,これといって何の病気もなく上記1.〜5.の何れかに当たり,入院が必要であると云われた場合でもなんとか自宅でコントロール出来るのはどの程度なのかお話しましょう.

まず,

1.は問題外ですね.このページを読まれるのは病院のベッドで意識が回復してからになりますから.しかし(あらゆる事を想定すれば)やれと云われれば在宅で薄い食塩水とブドウ糖にインスリンを混ぜながら点滴して治療する事は可能です.でもそれは病院が何らかの原因で使用出来なくなった場合に限ります.少なくとも今の日本でこの1.の状態で入院させないで治療するのは正気の沙汰ではありません.
 それでは2.以下です.正直云って3.〜5.の方は結構おられると思います.問題は2.の状態です.尿にケトンが出ると云う事は,既に食事を摂取しても体を動かすエネルギーに変換する力がなくなっており,仕方なく体の一部を溶かして動力源にしている状態です.糖尿病を放置しておくとどんどん脂肪も筋肉もなくなっていくのはこのせいです.脳が活動する為にはどうしてもブドウ糖が必要です.その為には体の機構はなんでもやってしまうわけです.  2.の場合はもうちょっとしたら1.に一直線です.それを在宅でやろうと云うのですから強い意志がまず必要です.それと主治医が.2.の状態では高血糖,多飲,多尿,脱水になっていますから,輸液(点滴)とインスリンが必要です.とにかく血管の中は血糖で溢れかえらんばかりになっていますから,早くそれをインスリンの力で代謝させてやらなければなりません.この状態でインスリンは嫌だと云わないで下さい.症状が安定すれば経口血糖降下剤に変更出来るかもしれませんし,実際にこの状態から抜け出して食餌療法のみで良好なコントロールを維持している人も結構多くおられます.もしかしたらこの時にインスリン注射の方法を教えてくれるところもあるかもしれません.
 と云うよりは自宅で2.の状態を抜け出す為にはどうしてもその手法は必要です.それに最近のインスリン注射は極めて簡単で,なによりも理屈に適っています.ここで無理して経口血糖降下剤を使用したら却って悪化させたり,又は急激な血糖降下で糖尿病性合併症を発症させてしまうかもしれません.そう,眼底出血などのです.スケジュールとしては出来れば朝夕,外来で2回500〜1000mlのインスリン入り輸液(点滴)して下さい.その際必ず血糖を測定されるでしょうが,どうせ点滴されるので痛い思いをするのは1回ですみます(翼状針で採血して,点滴に繋ぎ替えるだけですから).これすら時間がないと云う場合はせめて1日1度点滴を受けて下さい.後はインスリンの皮下注射でおぎなうと云う事になります. 糖尿病医はそこで注意深く血糖をあなたに告げて,打つべきインスリンの単位数を指示するでしょう.心配しなくてもこの状態はそう長くは続きません.  早ければ3日前後で輸液は不必要になるかもしれません.ここで一番注意しなければならない事は,食事の極端な制限と焦りによる自己判断によるインスリンの増量です.これは先ほど述べたような重大な合併症を引き起こしかねません.失明は最も注意すべきものです.この時点で(簡単にしろ)食事療法は既に指示されている筈ですからそれを守って下さい.甘いものは控えること,等とだけ云う医師からは今からでも遅くありません.早く手を切ってイエローページをくって下さい(但し,医業広告の法律上の関係で糖尿病専門とか,糖尿病科と表示することは現在のところ許されていません.もし現時点で糖尿病科と表示すれば違法になってしまいます.早く改善して欲しいものですね).

 そうしている内に徐々に血糖もおちつきはじめ,尿も減り,口の渇きも減り体が楽になっていくでしょう.こうなればしめたもので,あなたは高血糖の悪循環を断ち切ったことになります.この頃には最初に採血した結果が全て出ているでしょう.
 あなたの体からどれくらいのインスリンが出ているのか,とかコレステロールや中性脂肪も高いだのと云ったようなものもです.もしかしたらそろそろ経口血糖降下剤に替えられるかもしれませんし,やはりインスリンを続けなければいけないかもしれません.それにしても一応の窮地は脱したわけです.これにくらべると3.4.5.の場合はもう少しのんびりと治療出来るでしょう.まずは食品交換表を買って食餌療法から学び始めると云った型どおりの治療法で良いでしょう.  いずれにせよ,実際の病院で作られた糖尿病食を食べた事がありませんからそれは市販の本を買ってイメージを掴みましょう.但し,調味料や油脂(表5ですね)だけには注意して下さい.いくら外観と材料の量がぴったり合っているとしても砂糖,油まみれの食事は全く意味がありません.指示された食事はいつも絶対ではありませんから(例えば運動をいつもより多くする時など)その都度医師に確認をとって下さい.激しい運動をする場合は事前に血糖をやや高めにおかなければならない時もあります.
 一応入院しないでやる方法を述べましたが飽くまで目安であり,個人個人全く違うケースと考えて間違いありません.自己判断のみでやるのは絶対避けましょう.一度は入院をお勧めしたいのですが…

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